NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
第36回コラム(Dec/2006)
真のワイン醸造家、酵母のはなし
Text: ディクソンあき/Aki Dickson
ディクソンあき

著者紹介

ディクソンあき
Aki Dickson

三重県出身、神奈川県育ち、NZ在住。日本では、栄養士の国家資格を持ち、保育園、大手食品会社にて勤務。ワイン好きが高じてギズボーンの学校に在籍しワイン醸造学とぶどう栽培学を修学。オークランドにあるNZワイン専門店で2年間勤務。週末にはワイナリーでワイン造りにも携わる。2006年より約2年間、ワイナリーのセラードアーで勤務。現在はウェリントンのワインショップで、ワイン・コンサルタント兼NZワイン・バイヤーとして勤める。ワインに関する執筆活動も行っている。趣味はビーチでのワインとチーズのピクニック。

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みなさんはワインが好きですか?それでは、なぜワインが好きなのでしょう?いろいろな理由があると思いますが、「適度に飲むと、ほろ酔い気分で気持ちよくなるから」というのも、理由のひとつだと思います。どのアルコール飲料にも共通するこの理由は、飲料内のエタノール(エチルアルコール)によるもの。微生物である酵母が、アルコール発酵をすることで生み出されます。

酵母はブドウ内の砂糖を食べ、エタノールと二酸化炭素を排泄します(エタノールは酵母のうんちで、二酸化炭素は酵母のおなら、そしてワインのオリは酵母の死骸!)。ですから、酵母がワインを造っている、真のワイン醸造家なのです。

“ワイン醸造家”と呼ばれる人間は、酵母の種類を選び、酵母が繁殖しやすい環境を整え、酵母のアルコール発酵の開始と終了を決めます。複雑な計算やたくさんの知識と経験が必要とされるわけですが、酵母が良い環境の中、美味しいワインを造るのを助けているワイン造りの職人、又は技術者が、人間の“ワイン醸造家”なのです。

たくさんの酵母がブドウ樹の葉や枝、ツルや土、果実などに生息しているので、ワインはその昔、野性の酵母で造られていました。今もこの伝統的手法でワインを醸造するワイナリーもありますが、酵母を植えつけて(添加して)発酵を促す醸造法を用いるワイナリーの方が、現在ではもっと一般的です。ピノ・ノワール用、シャルドネ用というように、ブドウ品種それぞれに最適な酵母が商品化されています。でも、自生しているんだから、わざわざ酵母を添加しなくてもいいのではないか、と思いませんか?

実は、ブドウ畑に生息が確認されている酵母には、たくさんの種類があり、その中で、ワイン醸造につながる野生酵母(サッカロマイセス・セレヴィシェ / Saccharomyces cervisiae)の数は、わずか2~10%ととても少ないのです。不必要な、あるいは酒質の劣化をもたらす酵母の数の方が圧倒的に多い。ですから、ワインの仕上がりが、期待していたものとはまったく異なるものになる、ということが、往々にして起こります。酢酸菌が大量に繁殖して、お酢のようなすっぱいワインになることも。ですから、厳選したワイン酵母を添加してワインを造るワイナリーが多いのも、納得ですね。

それでは、野生の酵母でワインを造っているワイナリーでは、どのようにこの問題を解消しているのでしょうか。実際に土着の野生酵母(indigenous yeast)でワインを造っているワイン醸造家、ダニエル・シュスターに聞いてみました。

ダニエルの畑のブドウを、酵母を繁殖させる業者に持って行き、その個体数を増やしてもらいます。増えた土着の酵母を醸造所に持ち帰り、ワイン造りに用いるというのです。畑に住んでいる酵母の数が少ないなら、ほかの酵母を買って添加するのではなく、少ない酵母の数を増やす、というのが、ダニエルの考え方のようです。酵母の形を変えなければ、野生酵母ワインということができるのです。これは稀なケースですが、こういった方法もあるのですね。

ワインを造っている張本人、酵母は、肉眼では見られませんが、発酵しているときの彼らは、とても元気に騒ぎ立て、タンクや樽の中でパーティーをしているように聞こえます。この小さな小さな生き物抜きでは、ほろ酔い気分になることも、ワインを語ることもできないのですから、酵母様々ですね。

2007年1月掲載
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