NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
第65回コラム(Apr/2008)
コアなニュージーランド・ワイン ザ・変り種 その2
Text: 鈴木一平/Ippei Suzuki
鈴木一平

著者紹介

鈴木一平
Ippei Suzuki

静岡県出身。大阪で主にバーテンダーとして様々な飲食業界でワインに関わったのち、ニュージーランドで栽培・醸造学を履修。卒業後はカリフォルニアのカーネロス、オーストラリアのタスマニア、山形、ホークス・ベイ、フランスのサンセールのワイナリーで経験を積む。現在はワイン・スクールの輸入販売チーム、また講師として、ニュージーランド・ワインの輸入及び普及に関わる。ワイナリー巡りをライフワークとし、訪れたワイナリーの数は世界のべ400以上にのぼる。

この著者のコラムを読む

更に表示

さて、収穫も始まりだしてワイナリーが1年で一番忙しい季節ですが、今回はマールボロの左となりにあり急成長中のネルソン地区から、サイフリード・ワインズ(Seifried Wines)が造るWürzer/ウォァツァーとZweigelt/ツヴァイゲルトという、なにやら堅苦しい名前のワインをみなさまにご紹介したいと思います。

ドイツでは非常に寒い気候のためそれに耐えうる品種の改良が盛んで、たくさんのものが現在までに交配されて生み出されてきました。ちゃらんぽらんなラテン系と双璧をなす?お堅いゲルマン人気質があってこその、根気ある作業に違いありません。まあ日本人もこまごましたこと大好きですけどね…なんかやたら商品を小さくしたりとかさらにそれに色々詰め込んだりとか。第二次世界大戦で同盟組んだのにも納得です。負けたのはいいかげんなイタリアがいたせいだ!なんてジョークにもされていますが…ともあれそれらは本国をはじめその他の寒い国、例えばイギリス、カナダ、それから日本の北海道でも導入され利用されています。これもまあ名前のUのうえにちょんちょんと付いていることからわかるかもしれませんがそういったもの中のひとつで(いつもながらカタカナにするのに苦労します…これは英語発音に頑張って近づけてみました)、ゲヴュルツトラミネールとミュラー・トゥルガウの交配によって生まれた白ブドウです。

ラベルにも記載されていますが世界で約100ヘクタールほどしか栽培されていない、超がつくくらいマイナーな品種です。非常にゲヴュルツトラミネールらしさを残しており、ブラインドで(ラベルを隠して)飲んだら多くの方が「ん?このゲヴュルツトラミネールちょっと変わってるな」と思うくらいだと思います。フローラルでアロマティック、まさにゲヴュルツトラミネールの遺伝子を思わせ、少々糖分を残して口当たりはやさしく仕上げてあります。ここでは1999年より0.5ヘクタール植えられており、以前はノーマルなゲヴュルツトラミネールのワインに混ぜられていたようですが、それを2006年初めて商品化しました。サニー・ネルソン(Sunny Nelson)と呼ばれるほど日照量の多いこの地区では早熟な品種となり、多少ブドウの実と実がくっついた房をつくるので、病気にならないよう栽培には注意が必要なようです。

ここではこれ以外にもZweigelt/ツヴァイゲルトという、サイフリード・ファミリーのルーツであるオーストリア含む東欧で多く栽培されている黒ブドウから、Sylviaという名前のワインを生産しています。樹齢は3年で0.85ヘクタールがこれにあてがわれています。オーストリアは概して大きな湖のまわり以外はほぼ夏冬の気温差が激しい大陸性気候です。ここのツヴァイゲルトも海洋性のネルソンでも内陸にかなり入った、一番暖かい場所に植えられています。

ワインはライトで土っぽく、ピノ・ノワールと何かの合いの子を思わせる感じです。両方とも超高品質なワインとはいいがたいですが、共にニュージーランド国内でしか手に入りませんので、マニアな方はぜひ探してお試しください。近隣のいくつかのレストランでも楽しめるようです。

サイフリードは家族経営の典型的なワイナリーで、自分を案内してくれた長女で歯医者さんでもある異色の経歴の持ち主ハイディのほか、ワイン・メーカーの兄とマーケティング担当の妹と家族一丸となってこのネルソン地区を盛り上げています。訪問時にも畑担当のお父さんがステンレス・タンクを自分で溶接して(!)作っていました。他にも超お手ごろ価格で人口的に凍結させたリースリングから水分以外を搾り出してつくる甘口ワイン、アイス・ワインもつくっています。

このワインは昨年、世界的に権威あるワイン雑誌デカンターのロンドン・アワードで、世界中の名だたる甘口ワインを押しのけトロフィーを2つも獲得し、歴史の浅いニュージーランド・ワインとしては快挙を成し遂げました。(自然凍結でないためカナダからクレームがあり、一部マーケットではお母さんの名前を取ってSweet Agnesと名称変更しているそうですが)他にも、オーストリアの代名詞でアメリカで“グルービー”と呼ばれ人気急上昇中の白ブドウ、グリューナー・ヴェルトリーナーにも挑戦する予定だそうなので、今後も目を離せません。

では今回はこの辺で。以前は希少であったピノ・グリやヴィオニエを見かけることは非常に多くなり、もはやマイナー品種とは呼べなくなりました。こういったワインが増えれば増えるほどワインを選ぶのが大変になるとの声もありますが、選択肢が増え、それによってまたワインを選ぶ楽しみが増すこともあるでしょう。

大体最近は同じワイナリーの同じ品種、例えばシャルドネでも畑の違いやらロットの違いやら価格帯レンジの違いやら、樽の違いやらブラックラベルだのゴールドラベルだのと消費者から違いがわかりにくいことがしばしばなように感じます(特に大手ワイナリー!!!)。分厚いテイスティング・ノート付きのワイン・リストのなかにどんだけリザーブあんねん!みたいな……日本酒を選ぶときでも特選だの超なになにだのなんとか仕込みだの言われるとめんどくさくなる人もいるんではないでしょうか。なんだかニュー・ワールドのワインはフランスワインと比べて品種で選べるからわかりやす~いなんていわれていたのが懐かしく感じます。結局、世界中で同じ品種をつかっているわけですから、品種名以外の部分で勝負せざるを得ないわけですからね。

そういうことも考えると、今やブドウ品種名自体がまるっきり違うほうが選びやすくて、且つ際立って目立つ気がするのは、自分だけでしょうか?

2008年4月掲載
SHARE