NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
第70回コラム(Aug/2008)
ニュージーランドワイン・サステイナビリティ その1 ニュージーの象徴といえば?
Text: 鈴木一平/Ippei Suzuki
鈴木一平

著者紹介

鈴木一平
Ippei Suzuki

静岡県出身。大阪で主にバーテンダーとして様々な飲食業界でワインに関わったのち、ニュージーランドで栽培・醸造学を履修。卒業後はカリフォルニアのカーネロス、オーストラリアのタスマニア、山形、ホークス・ベイ、フランスのサンセールのワイナリーで経験を積む。現在はワイン・スクールの輸入販売チーム、また講師として、ニュージーランド・ワインの輸入及び普及に関わる。ワイナリー巡りをライフワークとし、訪れたワイナリーの数は世界のべ400以上にのぼる。

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さて、連想ゲームです。イタリアといえば?パスタ、歴史、キリスト教、ローマ帝国、ピッツァ、ブランド品、サッカー、ピサの斜塔、時間にルーズ、ゴッド・ファーザー、女ったらし…などなどなど。では、ニュージーランドといえば?

……え~?…ワイン?(ありがとうございます。でもイタリアと聞いて思いつくより確率が低そうですね)ロード・オブ・ザ・リングやキング・コングの撮影場所?(自然ということでしょうか。確かにそれしか自慢がないような…)あっ、そうそう人口より羊が多い!

このくらいでもう連想につまってしまいませんか?自分も恥ずかしながらここに来るまでは羊のことしか知りませんでした。ニュージーランドはもっと、自国を日本にアピールする必要がありそうですね。今回はその数少ないイメージのひとつ、羊についてです。

Black Sheep/ブラック・シープという映画をごらんになった方はいらっしゃいませんか?100%ニュージーランド製の、コメディなホラーです。動物が凶暴化して人間を襲いだすという、まあありきたりの設定なのですが、それが羊というところがニュージーランドなところです。日本では難しいかもしれませんが、できればぜひ探してみてください。

彼らはおとなしくて扱いが容易なことから従順、まぬけのような例えに使われたりとあまりいい扱いは受けていませんが、肉といい毛皮といいチーズといい、生活にかかせない動物であることは間違いありません。

ニュージーランド国内に推定で人口の10倍、4千万頭いるとされており、毎年羊のスピード毛刈り大会が熱く行われています。でも、そんな羊がワインなんかとどう関わりがあるというのでしょうか?

羊はフランス語ではムートン、そう、有名なボルドーのシャトー・ムートン・ロッチルドの象徴です。アメリカ・カリフォルニアはナパ・ヴァレーのカーネロス地区、実はカーネロスはスペイン語で羊の意味があるらしく、自分が以前働いていたドメーヌ・カーネロスのシンボルになっています。

でもそんなことだけでさすがに1つのコラムは割きません。彼らが草食で扱いやすいというところがポイントです。そう、畑の雑草を食べるんです。のーんびりしているから脅かさないかぎり暴れて若木をなぎ倒すこともありませんし、畑に囲いがあって牧用犬1匹いれば出し入れも容易です。雑草をかたっぱしから食べるわけではないので安定した効果が望めるわけではありませんが、糞から多少の養分の補給も期待できます。大体、羊が畑に放たれるのは収穫後少々して残された葉っぱが来年に向けて光合成から養分の補給を終えた後、紅葉/黄葉して光合成ができなくなった後からで、春に若芽が出るとそれも食べてしまう危険性があるので、最大でその頃までといっていいでしょう。

それに加えて、ギズボーンのブドウ栽培者クリス・パーカー氏によると、羊は葉っぱは食べてもブドウの実は食べないので、羊達の頭が届くところに限られますが、な・な・なんと除葉作業を羊にさせているというのです。残念ながらいまだ直接それを見る機会を得ていませんが、自分が氏とお会いしてその話を聞いたときは興奮を覚えました。

除葉とはブドウの果実により日光があたるようにその周りの葉っぱを取り除く作業のことで、ランダムに手や(何故かブルース・リーのようにアタァ!アタタタタァ!とやってしまうのは自分だけでしょうか…)最近では機械でも行われています。日影に生っているブドウは酸が多く残って糖分の貯蓄も悪く、赤ワインでは色のもとで健康ブームの火付け役となったアントシアニンも溜まっていきません。こんなブドウからできるワインは…想像がつきますよね。

逆に日光に当てすぎても文字通り日焼けしてカラメルのようなフレーバーがつき酸味も落ちすぎて過熟なジャムっぽい風味のワインになる恐れがありますので、暑いところでは逆に葉っぱを残し影を作為的につくることも行われます。

また、成長期前期に活躍した葉っぱは年をとって光合成の量も減少しており、ブドウの実は基本的に木に近いところのもののみなるように管理されているため、その周りの古い葉っぱを取り除くことは光合成の活発化にもつながります。ちょっと難しくなってしまいましたが、まあ簡単に言うと論理的には木の仕立て方の高さがちょうどよければ羊でも可能だということです。ただし位置が低すぎるとそのフルーツ・ゾーンの上の葉っぱまで食べて光合成量を著しく減少させてしまうため、注意が必要です。

しかしながら、化学肥料も除草剤もガソリンをつかう機械さえ使わないとしたら、環境にやさしいことこの上ないではないですか!これこそまさに“ニュージーランド”という気になりませんか?“Sustainability/サステイナビリティ”、つまり地球環境に与える影響を出来る限り軽減しブドウ栽培やワインづくりをいつまでも続けられるように努めることを掲げるニュージーランド・ワイン産業ですが、中でも熱心なところはすでに試験的に導入しデータを取り始めたようです。この間訪れたネルソンのワイナリー、Seifried/サイフリードでも羊がやたら畑にいたので聞いてみたところ今年から実験を始めたようで、現在までの結果には満足しているようです。ただ、あまりに地面にカバー・クロップや雑草が生えているとブドウの葉にまで気が回らないようなので、羊を畑に放つ前に下草のコントロールが必要になってくるだろうとのことでした。

食肉、チーズ、毛皮に映画出演、さらには畑仕事!オーストラリアのカンガルーやコアラ、アメリカのプレーリー・ドッグじゃこうはいきません。まあカンガルーも食べれますけど…。

余談ではありますが、羊に関して現在いるオーストラリアで聞き捨てならぬ情報を入手しました。毛刈りはシンボルともいえるバリカンで行われていたのですが、ななんと現在ではホルモン剤を注射して網みたいなのをかぶせて放置するだけで、服を脱がすようにつるんとむけるようになったらしいのです。それもオーストラリアの会社と共同開発したのが日本の著名醤油メーカーだというから驚きです。知人より日本のTV番組でも扱われていたよ、という噂を聞き調べてみたらネットでその映像も閲覧できたのですが、かなり衝撃的でした…注射による副作用等もなにもなく、バリカンによる傷がつかないので病気にもならず且つ羊たちも楽ということでしたが、これが普及すれば羊の毛刈りの写真もそのうち歴史資料館の一部になってしまうのかと思うとちょっと複雑な気になります。

ニュージーランドの国家を代表するお羊様ですから、毛刈りのお祭りはきっと続いていくと思いますが、何年何十年かした後は祭りに選ばれる羊がエリート中のエリートとして貴重に扱われるかもしれませんね。羊からしたらちくっとする注射がいいのかはたまたバリカンがいいのか、ちょっと意見が分かれることと思いますけど。

2008年9月掲載
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