NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
第98回コラム(Nov/2010)
ワイン留学 その3
Text: 藤山恵水/Megumi Fujiwara
藤山恵水

著者紹介

藤山恵水
Megumi Fujiwara

神奈川県出身。2003年5月にニュージーランドに初めて旅行で訪れた際にワインのおいしさに目覚め、以来特にニュージーランドワインのファンとなる。大学卒業後、東京で会社員として数年勤務したのち、2008年にワーキングホリデービザを取得してニュージーランドに渡航。語学学校を卒業後、憧れだったワイヘキ島のワイナリーで収穫作業を経験。将来の夢はニュージーランドの学校でワインについて学び、ニュージーランドのワイン業界で働くこと。趣味は映画鑑賞、読書、旅行、書道、写真。

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最近よく思います。「きっかけ」は必要だなと。ふとしたことがきっかけとなり、新しい世界に目を向けることができる。私の人生も然り。以前のコラムにも書いたように私がワイン好きになったきっかけは映画『ロード・オブ・ザ・リング』。この映画の影響でニュージーランドを知り、旅し、ニュージーランドワインの美味しさを発見し、好奇心も手伝って今の留学生活に至る。面白いものです。

さて、数年の歳月をかけて叶えた私の留学生活も大部分が過ぎてしまいましたが、今まで様々なきっかけを与えられていると感じます。学校では基本的に生徒は受け身の存在です。授業を受け、課題を与えられ、評価され…。でもそのなかで学生生活をいかに充実させ、どれだけのことを吸収できるかは、その人にかかっていると私は思います。後期に入って前期の倍近くアサインメント(宿題)が課されましたが、このアサインメントにいかに取り組むか?がポイントです。正直に言って、授業で学ぶのはそれぞれの教科の概要に過ぎません。それを応用して勉強を深め、知識を自分のモノにするのです。

後期から新しく始まったワインビジネスの科目は良い例です。テストなしで、四つのアサインメントで成績を評価されます。最初は「やった!」と思いました。前期で少しアサインメントに自信がついたので、普通に頑張ればこの科目はパスできるだろう、と。テストは苦手です・・・授業で学んだことを復習して覚えて、制限時間内で辞書を使わずに英語で答えていくのは本当に骨が折れます。ところが、約3ヶ月の間で4つのアサインメントをこなすのはハード・スケジュールだということに気づきました。もちろん他の科目でもアサインメントを課されるので、一つ終わっても次が待っている、もしくはほぼ同時進行でいくつかのアサインメントに取り組むという状況です。一つ一つ丁寧に時間をかけて取り組みたいと思ってもできない・・・葛藤です。

最初のアサインメントは何か一つテーマを決めて世界のワイン史についてエッセイを書き、さらにパワーポイントを作ってプレゼンし、その後感想や反省を書いて提出するという内容。大学で歴史学科専攻だった私にとっては歴史を勉強するのは趣味の延長のようなもの。前期の最後に書いたアルコールと健康についてのエッセイは得意でなかった理科系の内容で苦労しましたが、このアサインメントのテーマは楽しそうと思い、Mediterranean Trade(地中海交易)をテーマに選びました。古代ギリシアでの地中海交易がいかにワイン史のなかで重要で後世に影響を与えたか等を論じていくものでしたが、予想以上に苦戦しました。文献を集めるのは比較的楽でしたが、英語で歴史を読むのは大変です。当然のことながら間違った解釈、読み取りはしてはいけない、紀元前のことなので若干本によって年代の表現の仕方等が違うので、パニックになったりしました。さらにパワーポイント作りに一苦労。ソフトの使い方がよく分からないので、まずは図書館のラーニング・サービスで1時間パワーポイントについて教わることからスタート。そして次には「何かエンターティメントの要素を入れるように」という先生の指示にも戸惑いました。最初は不安でしたが、それでもこの作業は楽しかったです。パワーポイントについて学ぶ良いきっかけにもなりました。

2週間強、思考錯誤を重ねて何とか資料作りは完成しました。しかしプレゼンは大変でした。前にセールスの授業でプレゼンをしたときに練習不足で悔しい思いをしましたが、今度はとても暗記できるような量ではないし、歴史や地理の用語は発音も難しい。せめて発音だけは完璧にしようと思って練習しました。結果は前回のリベンジならず。またしても反省点が残りました。留学生活が始まって何度か英語力不足で落ち込むことがありますが、このときもまさに英語コンプレックス、‘日本語恋しい病’にかかっていました。今はまた乗り越えて再び前向きな気持ちになれましたが、こういう波は何度となくやってきます。

後期からワイン関係の授業が多くなり、ワインの世界の奥深さに一歩足を踏み入れた、という感があります。その奥深さに圧倒されますが、したかった勉強なので楽しいです。

今取り組んでいる2つ目のワインビジネスのアサインメントはニュージーランドのワイン史についてです。ニュージーランドのワイン史は大きく三つの時代に分けられます。最初は19世紀に始まったワイン作りから20世紀前半の第二次世界大戦頃まで。次にアメリカ兵がニュージーランド駐屯中にワインを飲む習慣を広めたことから始まる需要の高まりから、1960年代までのブームまで。そして60年代以降にニュージーランド人は海外で見聞を広め、ワイン業界も現在に至るまで変貌を遂げていきます。私は身近に感じた1990年代頃のAnything but Chardonnayについて書くことに決めました。90年代にニュージーランドのワイン業界は大規模なワイナリーか小規模のワイナリーかに二極化し、シャルドネが市場に溢れすぎ人々はシャルドネに飽き、別の味わいを求めたそうです。これは世界規模で起きたことです。日本で色々な国のシャルドネを買って比較して飲むことができたのは、こういう背景があったからか、と納得しました。

また別のアサインメント(ワイナリーの企業分析レポート)の添削を図書館のスタッフにしてもらっている際に、「20年か30年前は今のようにキウィ(=ニュージーランド人の愛称)は日常でワインを飲んでいなかった」と話してくれ、面白いなと思いました。今ではこの国の人にとってワインは欠かせません。前にキウィの友達の家に遊びに行ったときにお茶がわりに「ワイン飲む?」と言われ驚きました。彼らは不況と言っても安い10ドル前後のワインを買って飲んでいます。日本にもワインがもっと普及すればよいのに…とも思いますが、食文化の違い等がやはりネックなのかなとも感じます。ニュージーランドのワイン史を学びながら、この国の変遷も知る。面白いです。今回のエッセイは、日本語でも書いたことがないスタイルの文章、リアルもしくは仮想のインタビュー形式の記述でやや難ですが、これもチャンスです。ぜひモノにしたいと思います。

ところで、最近このワインビジネスの授業でホークス・ベイにあるエレファント・ヒルというワイナリーの見学に行ってきました。ワイナリーの責任者が丁寧に1時間強ワイナリーを隈なく案内してくれ、最後にティスティングもさせてもらいました。貴重な機会でした。先週もクラスメートが先生に野外授業の提案をして、学校のバンが授業の日に使えるようであれば、次の授業は野外授業になりそうです。また、生徒がワイン関連のDVDを持ってきて授業で見たりすることもあります。こういった自由な雰囲気がニュージーランドらしい良さなのだろうと思います。

きっかけといえば、このコラムを通じてお知り合いになったかたもいます。七月のホリデーの一週間は、そのかたが働くワイナリーのヴィンヤードでプルーニングやワイナリーのお掃除のお手伝いをさせていただきました。ワインコースと言っても、ヴィンヤードやワイナリーでの実習がない私にとっては貴重な体験となりました。色々大変なことはありましたが、人との出会いにも恵まれ助けられ、おかげさまで充実した留学生活が送れているように思います。学校の留学生用の来年度のパンフレット作成にも声がかかり、私の写真とコメントが掲載され記念にもなりました。そこにも書きましたが、これからも「ハイ・モチベーション」で勉強をがんばり、将来につなげたいと思います。

2010年12月掲載
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