NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
現地と日本を繋ぐ!ニュージーランドワイン試飲商談会2025
NEW! 第241回コラム(Jun/2025)
現地と日本を繋ぐ!ニュージーランドワイン試飲商談会2025
Text: 岩須直紀/Naoki Iwasu
岩須直紀

著者紹介

岩須直紀
Naoki Iwasu

愛知県出身、名古屋市在住。ニュージーランドワインとフュージョン料理の店「ボクモ」オーナーソムリエ。ニュージーランドワイン専門通販店「ボクモワイン」を運営。
ラジオ番組のディレクターを経て現職。現在も構成作家としてラジオ番組の制作に関わっている。
飲食業界に入ったのも、ニュージーランドワインに出会ったのも30歳を過ぎてから。遅れてきた男である自分と、ワインの歴史に遅れてやってきて旋風を巻き起こしつつあるニュージーランドワインを勝手に重ね合わせ、「ともに頑張ろう」などと思っている。

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今年も六本木のザ・リッツ・カールトンで、ニュージーランドワインの試飲商談会が開催されました。
例年は専門性の高いセミナー「マスタークラス」があるのですが、今年は残念ながらナシ。でも正直なところ、あのセミナーの時間が毎回濃密すぎて、その日の脳リソースの大半を使ってしまい、その後のテイスティングの時間に少しぼーっとしてしまうことがしばしばありまして・・・笑。今年は全振りでテイスティングに集中力を使えると思えば、それもまたよしとしましょう。

会場となった部屋は、去年までとは違う「グランドボールルーム」という名の大広間。 天井がとんでもなく高く、装飾はたいそうきらびやか。じゅうたんはふかふか。ChatGPTに「一流ホテルのゴージャスな大広間ってどんな感じ?」と投げたらこの部屋の画像を生成してきそうです。そして自分がこの空間に似合う上品な人間になったような錯覚を覚えながら、いざ、グラスを手にふかふかを歩きます。

味覚が冴えている前半は、今年現地訪問したワイナリーのワインを中心に。ラブ・ブロックやペガサス・ベイ、トリニティ・ヒルなどからどんなワインが日本に入ってきているかを確認します。

まずはラブ・ブロックの瓶内二次発酵ソーヴィニヨン・ブラン100%のスパークリングを。立ち上る泡がキメ細かく、酸はきりり。アワテレ・ヴァレーの冷涼な空気感を感じます。それだけでなくふくよかさ、蜜のような甘さもあってたいへん美味。飲食店のグラスワインでも活躍しそう。1杯のつもりがおかわりしちゃうやつです。

ペガサス・ベイで注目したのは、醸造家が変わった後のソーヴィニヨン・ブラン2024。現地で飲んだときも感じましたが、あらためて確認すると、やはりこれまでとは一線を画す透明感があります。これまでの濃厚複雑系からはガラッと変わり、繊細でクリアな味わいになっている。醸造家チェンジでこれほどまでにスタイルが変わるんだということを、改めて実感させられるワインでした。今後は、ブランド全体もこっちの「キレイめ」な感じにシフトしていくことを予感させます。

そして驚いたのはトリニティ・ヒル。ニュージーランドではかなり珍しい南仏ローヌ的セパージュ「マルサンヌ・ヴィオニエ」が日本に上陸していたのです。先日、彼らのギムレット・グレヴェルズの畑を訪れたときは、メジャー品種だけでなく、ニュージーランドではあまり見かけない品種もいろいろ植えているのを目にして、次のスター候補を探しているんだな、と感じました。そして、今回新たに届いたのがマルサンヌとヴィオニエのブレンド。そうきたか!
どうしても日本市場では、南仏白ワインは地味な存在。さらに「ニュージーランドで作る南仏白」なんてほとんどの日本人は知らない。それをあえて持ち込んできた。マニアをくすぐろうというわけですな。
味わいは、期待通りの華やかさと厚み。香りも豊かで、余韻は長く、どっしりとしたフルボディ。攻めている一本です。多様化、進んでるなあ。

その多様化という視点で出品リストを見ると、フィールドブレンドやペットナットのようなナチュラル系のつくりもちらほら。アルバリーニョやグリューナー・フェルトリーナー、プティ・マンサンといったレアな品種も見られます。

もちろん「白はソーヴィニヨン・ブラン」「赤はピノ・ノワール」という国の二枚看板は不動です。でも、典型的なスタイルにとどまらず(あるいはあえて避け)、「次の一手」を模索するワイナリーも増えてきている。ワイナリー数が700軒を超え、産地も広がりを見せる中、新しい品種や新しい醸造法を取り入れる動きが広がっていることを実感します。いいぞがんばれチャレンジャー。

そうそう、チャレンジャーと言えば、こだいだのニュージーランド訪問でもお世話になった小山浩平さん。彼もチルドレッド(冷やして飲む赤)やフィールドブレンド、オレンジワインなどを自らのブランド「グリーンソングス」で展開しています。実は浩平さん、先日名古屋のうちの店に来てくださる予定だったのですが、風邪でダウンされてしまったそうでお会いできず。が、今回の商談会では復活し(ちょっと痩せていらっしゃいましたが)、元気にブースに立っていらっしゃってホッとしました。

浩平さんが栽培醸造責任者をつとめる正統派ブランド「アーラー」は、ソーヴィニヨン・ブランピノ・ノワールも複雑かつ綺麗。個人的にはスパークリングの品の良さ、やはり素晴らしいなと。その一方で、先述したようにグリーンソングスではチャレンジングなワインもつくっている。王道も冒険も自由自在。すごい才能の方だなと改めて思いました。

ちなみに、浩平さん曰く、アーラーのセラードアとレストランが入っているワイナリー施設が、ニュージーランドの建築賞を受賞したとのこと。
へえ!あの出来たばかりのピカピカの建物。本当に格好良かったもんなあ。レストランの食事もとても美味しかったし、ソファのスペースではまるで時が止まったような贅沢な時間だった。あのときすでに地元の人で賑わっていたけれど、賞の受賞をきっかけにこれからますます訪問者が増えるんだろうなあ。

と、そんなことを考えているとき。
突然ポケットのスマホが震えます。LINEの通知。
なんと!!スタッフ急病につき、急遽名古屋に戻らねば。。。
うむむ、無念。まだ前半のつもりだったのに。

でも、もう少しだけ粘りたい。生産者ともう少しだけお話ができたら。そう思っていたところに声をかけてくれたのがマールボロは「cirro(セロー)」のオーナー、デイヴィッドさん。
僕は常々「マールボロのワインは笑顔で話しかけてくれるような明るさがある」って思っているのですが、まさにこの方はそんなマールボロワインを体現していました。全身から「陽」のオーラが出ていて、話すだけでビタミンDが生成されそう。
「ニュージーランドに来たことはある?」
「今年2月にマールボロに行きましたよ。」
「そう!じゃあレンウィックってわかるよね?あそこが僕たちの拠点だよ。次は僕のワイナリーにも来てね!」
そう言ってワインを注いでくれます。試飲した中で特に良かったのは、ピノ・ノワールのロゼ。
「このピノは、スイスのマリアフェルド3というクローンを使っているんだ。ディジョンクローンが主流だけど、ロゼにはこっちがあうと思ってね。」
こだわってますなあ!
味わいは極めて明るく、イチゴや柑橘の皮のフレイバー。ドライな質感に心地よいほろ苦さ。テラス席で景色を眺めながら飲みたくなるやつ!

試飲後にデイヴィッドさん、少し意地悪そうな顔でこう聞いてきました。
「で、あなたの一番好きなニュージーランドワインは?」
……しまった。その質問の回答、まったく準備してない。お店ではたまに聞かれるんですよ。でも「自分で選んでいるからぜんぶ好きです」なんてちょっと逃げています。しかし、プロ相手にそれはいかん。 ここは一本、ちゃんと名前を挙げないと失礼だ。よし、あえてここはマールボロのワインを。
「グレイワッキの『ワイルド・ソーヴィニヨン』が好きですね」
と答えた瞬間、デイヴィッドさんが満面の笑顔で一言。
「ホントに!?グレイワッキは、うちの妻が働いてるワイナリーだよ。伝えておくよ!」
まじか!そんな偶然ってあるのね、なんて盛り上がって、記念写真をパチリ。こういうご縁が、またニュージーランドをぐっと身近にしてくれるんだな。日本にいながら、ニュージーランドの風景や人との記憶が蘇ってきます。そうだ、グレイワッキを訪れたのはもう10年前か、また行きたいな。

そうこうしているうちにタイムリミット。後ろ髪を引かれながらふかふかのじゅうたんをあとにし、新幹線に乗り込みます。揺れながら、改めて今回のパンフレットをめくると、今年はひと味違うコーナーを発見。おお、これはいい。NZワインの特徴や主要産地、品種がわかりやすくまとまめた入門ガイドのコーナーです。まだ日本ではマイナーなNZワインを少しでも身近に感じてもらうために、こういう興味を持った人が次に進む道しるべが大事なんだよな、と車内でぶつぶつ。

そこには僕があまり見たことがない資料もありました。それは、ニュージーランドワインの主要輸出先ランキング。これによると、ニュージーランドにとって、日本は第10位の輸出先らしい。へえ!
日本が輸入しているワインの国別ランキングでもニュージーランドは第10位なので、双方10位なんて相思相愛!と一瞬浮かれましたが、いや違う違う。ニュージーランドのポテンシャルはこんなもんじゃない、もっと日本でニュージーランドワインの魅力を伝えることが出来たら、ニュージーランドからの輸出量が上がり、そうすれば日本国内のランキングも上がるはずだと思い直します。

それから、今年の商談会でよかったなと思ったのは「お水」です。試飲会定番のホテルのステンレス製ウォーターピッチャーに入ったお水ではなく、今回はNZのミネラルウォーター「アンティポディーズ」が使われていたのです。

これ、先日ニュージーランドを訪れたとき、現地の友人のおうちにお呼ばれしたときにも出していただき、とっても美味しかったお水です。レストランでもこれが出てきたし、スーパーにも売っていた。ミネラルしっかりの軟水。とても美味しいです。これが日本でも流通するようになったんだ!ボトルの形も可愛くて、使い終わっても一輪挿しなどで使えそう。ぜひ、我が店でも導入したいなと思いました。

さらに今回は、ワインの他、ジンやコーヒー、グリーンマッスル(ムール貝)、マヌカ入りのナッツなどのニュージーランド産品の紹介もありました。今年は6年ぶりに一般のお客様向けの「消費者の部」も復活しましたし、ニュージーランドファンの心をつかむこうしたワイン+αの魅力発信は今後ますます重要になってくるんじゃないかなと。
僕自身、ニュージーランドワインの通販をやって実感しているのは、ニュージーランドワインのリピーターの多くがNZに実際に行ったことがある、もしくは住んでいた方々だということ。そういう方々は、ニュージーランド愛に溢れ、ワインだけでなく、ニュージーランド製品全般に愛着があります。

だから、こうした試飲会の場でワインと一緒にニュージーランドの空気を感じられるアイテムって大事だなと。「美味しい」だけでなく「あの時を思い出すなあ」も提供できたら、それはたいへん特別な体験になると思います。

そんなこんなで、とんぼ返りして我が店に出勤。すると、ニュージーランドワインをもっと知りたいんです、という同業者の方々がご来店くださいました。さっそく今日の話を交えながら、ニュージーランドワインの魅力を語り合います。やっぱりワインは人を繋ぎますね。なかなかハードな1日でしたが、ハプニングで名古屋に戻ってこなければ、そんな同業の方々とも時を分かち合えなかったわけで。これもまたよし、です。

また来年の商談会も、良い出会いと発見がありますように。主催の齋藤慎さん、スタッフの皆さん、お疲れ様でした。毎年素晴らしい会をありがとうございます。

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