NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
第23回コラム(Feb/2006)
ワイン犬(Wine Dog)のお仕事
Text: ディクソンあき/Aki Dickson
ディクソンあき

著者紹介

ディクソンあき
Aki Dickson

三重県出身、神奈川県育ち、NZ在住。日本では、栄養士の国家資格を持ち、保育園、大手食品会社にて勤務。ワイン好きが高じてギズボーンの学校に在籍しワイン醸造学とぶどう栽培学を修学。オークランドにあるNZワイン専門店で2年間勤務。週末にはワイナリーでワイン造りにも携わる。2006年より約2年間、ワイナリーのセラードアーで勤務。現在はウェリントンのワインショップで、ワイン・コンサルタント兼NZワイン・バイヤーとして勤める。ワインに関する執筆活動も行っている。趣味はビーチでのワインとチーズのピクニック。

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ワイン犬(Wine Dog)という犬の存在をご存じですか?ワインを飲む犬という意味ではなく、ヴィンヤードやワイナリーで活躍している犬のことです。実は、ニュージーランドでも多くのワイナリーに、ワイン犬が飼われています。

ワイン犬のワイナリーでの仕事を定義するのは容易ではありませんが、それぞれのワイナリーでそれぞれユニークな仕事をしているようです。

例えば、セントラル・オタゴにある小さなワイナリー、ボールド・ヒルズ・ヴィンヤードでは、大きなオス犬のジャック(Jack)がセラー・ドアーに来る訪問者を歓迎し(ながら昼寝し)ていますし、西オークランドのクーパーズ・クリーク・ヴィンヤードでは、モデル歩きをするオシャレなプードルが、犬好きの訪問者たちの目を引いています。

また、私が最近会った、マールボロにあるローソンズ・ドライ・ヒルズのトミ(Tomi)は、訪問者に歓迎の挨拶をしてくれます。彼女は私のお気に入りでもあり、駐車場に車を停め、ワイナリーのセラー・ドアーに近づくと、ポッチャリ太ったトミが、まずは「ワン!」の挨拶。そして、尻尾を振りながらリラックスした足取りで近づき、場をなごませます。

しかし、このつぶらな瞳のメスのラブラドール(5歳)の歓迎はいわば“趣味”みたいなもので、本業はもっと重要なお仕事。それはかなりの専門職で、ワイナリーのオーナー、ローソン氏によると、トミが収穫時期の決定するというのです。この秀でた特技は、トミがまだ仔犬の頃から育まれたものだというのです。

通常、リフレクトメーター(屈折糖度計)と呼ばれる機器を用いてブドウの糖度を計り、糖度22ブリックス(゜Brix)以上になったら、収穫どき。でも、トミさえいれば、こんな計器は必要ありません。

というのも、収穫期前のある日、ローソン氏がブドウの糖度を計るために、ブドウの房の一部分を用いて果汁を搾り出し、糖度を計器で計っていました。計った後の残ったブドウは、地面に捨てますが、ローソン氏が気付くと、トミは糖度22ブリックスかそれ以上のブドウにだけ飛びついて、22ブリックス未満のブドウには、見向きもしないというのです。しかも、匂いだけで糖度を嗅ぎ分けられるというのですから、大したものです。

今では、トミがブドウ畑で美味しそうにブドウを食べていたら、収穫期と判断しているとのこと。お気に入りのシャルドネ種をたっぷり食べさせてもらっているので、益々膨よかになってゆくトミではありますが、温厚な性格の持ち主でとても賢く、愛すべきワイン犬でした。

このほかにも、ウサギやポッサムなど、ブドウの木の皮や若葉を食べてしまう有害な動物を追い払ったり、狩猟したりする賢いワイン犬もいます。でも、ほとんどのワイン犬が果たしている共通の仕事があります。ブドウ栽培家や醸造家、セラー・ドアー・パーソンなど、ワイナリーで働く人々や、ワイナリーへの訪問客の心を和ませ、収穫期や剪定時期の疲れた労働者たちの顔に笑顔をもたらすこと。単純だけど、これがどのワイン犬にも共通する最も大切な仕事なのです。

もしも、今度ワイナリーを訪れる機会があり、そこに愛想の良い犬がいたら、きっとそれはワイン犬です。でも、むやみにさわったりせず、必ずワイナリーの人にさわって良いか聞いてからかわいがりましょう。

2006年3月掲載
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