NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
NEW! 第237回コラム(Nov/2024)
ワインボトルの栓 - コルク&スクリューキャップ
Text: 和田咲子/Sakiko Wada
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- #スクリューキャップ
皆さま、こんにちは。
南半球に在るニュージーランドでは既に初夏の陽気な日差しがまぶしい季節となっています。天文学的に、そして気象学的にはニュージーランドの夏はLongest Day(12月21日か22日の夏至)からだとされていますが、慣習としては Labour Weekend(10月第4月曜日の Labour Day 労働者の日)が来れば夏の始まりでDIYのシーズンだ、と言われています。クリスマスホリデーに向けて人々の気持ちも浮き立ち、ワインが登場する機会も増える季節ですね。
日差しの中で緑を見乍ら、と言う場面には白やロゼが合いそうですが、そのボトルを開ける瞬間をイメージしてみてください。栓はコルクでしょうか?それともスクリューキャップでしょうか?
実はニュージーランドでボトリングされるワインの90パーセント以上は既にスクリューキャップだそうです。世界中で毎年生産されるワイン約70 億本の内、スクリューキャップに移行している数は10年前の約1 億本から既に約30 億本にまで増えているそうですので、世界における約45パーセントの普及率と比べても格段に高いですね。何故でしょう?
それは2001年初めに設立された『The New Zealand Screwcap Wine Seal Initiative(ニュージーランド・スクリューキャップ・ワインシール・イニシアチブ)』の功績によるところが大きいと思います。
"Kiwi ingenuity"という言葉を聞かれたことはありますか?ニュージーランドは若い国ですが、ヨーロッパ大陸から移民してきた人たちが本国に比べて全く何もないところで手近に在るものを使い創意工夫と革新的なアイディアで色々なものを作り出してきた、その精神を称えて今もKiwiを表す言葉としてよく使われています。日本人も手先が器用なので、発明は下手(?)だが外国からやって来たものの質をどんどん高めてゆく事には長けている、と言われますが、どことなく似た精神を持った国民性だなぁと常に感じています。
伝統に縛られずに良いと思ったものは取り入れてゆく、この精神があるからこそ、現在のニュージーランドのワイン産業の発展もあるのでしょう。
2000年に南オーストラリアのClare Valley(クレア・ヴァレー)のワインメーカー数社が、最高のリースリングなのにトリクロロアニソール(TCA)が出る確率が高いので、長期セラーリングを可能にしたいとの思いから、スクリューキャップを導入しました。これに触発されたニュージーランド南島マールボロのワインメーカー数社が非公式な実験を行った結果、スクリューキャップがコルクよりはるかに優れていることが立証され、翌2001年に33の会員でニュージーランド・スクリューキャップ・ワインシール・イニシアチブが結成されました。
ローソンズ・ドライ・ヒルズ、フォレスト・エステート、ジャクソン・エステート、フォクシーズ・アイランド等がスクリューキャップの強力な信奉者で、クメウ・リヴァーのマイケル・ブラコビッチ(Master of Wine)が議長に迎えられたそうです。
コルク臭の出たワインを開けた瞬間の無念さ、本当に残念ですよね。地域や年代にも依りますが何と8パーセント程からある試験では25パーセント近くにも及ぶワインに「コルク臭」が発生するそうです。なんと勿体ない!コルクの臭いのカビ臭や風味は、TCAという化学物質が原因で、カビ、塩素、フェノール(すべての植物に含まれる有機化合物)の相互作用によって生成されます。
TCA はコルク林やコルク製造工程のほぼどの段階でも発生する可能性はあります。スクリューキャップはこの問題を解消、或いは最小限に抑えると考えられています。
No more Down Under!ニュージーのキーウイー・インジェニュイティーでスクリューキャップへの移行をリードしてきたこの国は、他にもワイン業界に革新的な動きを起こしています。
ニュージーランド産の高品質の低アルコールワインは既にメダルを幾つも獲得しています。
また、オークランド大学で開発された『Wine Grenade(ワイン・グレネード)=ワインにほうり込む手榴弾!』は携帯型デバイスを熟成中のワインに投入しワインメーカーの捜査の元、動く透過性膜を通して微量の酸素をゆっくりと放出させワインの熟成プロセスを加速する事により、より早く商品としてのワインを安価に市場に届けられるそうです。
さて、ワインの栓に話を戻しましょう。
このワインコラムでも一度登場した Grapetreaders と言うワインテイスティング・グループで、まさにコルク vs スクリューキャップのテーマでテイスティングがありました。
ニュージーランド・スクリューキャップ・ワインシール・イニシアチブ 設立当初のメンバーでもあり44年間はこのクラブのメンバーやセラーマスターを務めてくれている Mark Compton氏が担当した月です。
彼は試験開始から約20年後に試験ワインをテイスティングしたいと考えていたそうで、最初から関わっていた他の2人のメンバーに連絡を取ったところ、2 人とも試飲と評価のためにサンプルを惜しみなく提供してくれたとの事でした。クメウ・リヴァーのマイケル・ブラコヴィッチ(MW)とニュージーランドで最初にスクリューキャップの優勢に目を向けたフォレスト・エステートのジョン・フォレストです。
当日テイスティングしたワインは以下の通り。
ヴィンテージの差は1年ありますが、コルクの方が早く熟成が進んでいて、色も濃くマイルドになっています。スクリューキャップの方がまだ果実味が強く、酸味などのインパクトも強く、熟成がゆっくり進んでいるのが分かります。
スクリューキャップの方はまだ綺麗な黄金色で少し濃くなったストローカラー(藁色)と言える。コルクの方はもはやamber(琥珀色)で既にシェリーの様な酸化が始まっているのが感じられましたが、スクリューキャップの方はふくよかな丸みを持つとても美味しいシャルドネでした。
コーナーストーンのボルドーブレンド2001 に関してのマークのコメントはこうです。
『驚きのワインでした。縁までタイルの赤色で、風味豊かなアロマとしっかりとしたタンニンがワインに顕著なグリップを与え、時の経過で柔らかくなっている素敵なワインでした。コルクとスクリューキャップのボトルは非常に近い結果で、ワインのコルクが非常に高品質であることを示しています。一部のテイスターはコルクのボトルを好みましたが、大多数はスクリューキャップのボトルを好みました。』
本当にどちらも良い状態にエイジングしていて美味しいワインでしたが、コルクの方が舌の上でクリクリと感じるタンニンであるのに対して、スクリューキャップの方は細かくはなってきているもののまだザラザラしたタンニンで、フルーツ香もしっかりと残っていました。色もコルクの方が少し透明感の入り始めた深紅で薄く見えるのに対し、スクリューキャップはまだしっかりとフルーツの色が綺麗な濃い目の深紅色でした。
テイスティングを終えて皆で議論し合いましたが、結論としては、スクリューキャップのワインも時間の経過とともにコルクと同様の経路で成長し、熟成してゆきますが、コルクの場合に多く発生するワインの風味に悪影響を与えるリスクがとても少ないのだと思います。
マイケル・ブラコビッチ(MW) は、ワインの風味に影響を与えない高品質のコルクとスクリューキャップのワインは、時間の経過とともに区別がつかないことを確認したそうです。
マークが話してくれた重要な点は、コルクの栓はボトルのガラスの首の内側にあるのに対し、スクリューキャップのシールはガラスのボトルの外側にあり、キャップの真上にあることです。これにより、スクリューキャップのシールは、乱暴な取り扱い、積み重ね、または保管による物理的な損傷にさらされます。ですので、購入する際には、表面が滑らかで目に見えるへこみがないスクリューキャップのワインを選ばなければいけません。
さて、皆さん、スクリューキャップのワインは安っぽくて質が悪いというイメージは無くなりましたか?
スクリューキャップに対する反対意見は、ワインが「呼吸」して熟成できるのはコルクだけ、つまりコルクがボトル内に酸素を通すからだというものでした。けれども科学と技術の進歩によりこの理論はほぼ覆され、実際、一部のスクリューキャップは少量の酸素をワインに通すことでコルクを模倣できるようにもなっているそうです。
ただ、コルク抜きセレモニーには格式とロマンティックさがありますよね。
コルクの質によっては折角のセレモニーの直後に残念な気持ちを経験しなければならなくなりますが、それでも矢張りどちらが良いとは言い切れません……。現在の向上したスクリューキャップなら何年目頃に開ければいいか、それを知って時と場合に応じたワインを選んでいければ良いな、と思います。
和田咲子
Sunday 17 November 2024 執筆