NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
第222回コラム(Jan/2022)
ワインと共につながる喜び
Text: 和田咲子/Sakiko Wada
著者紹介
和田咲子
Sakiko Wada
日本に住んでいた頃からヨーロッパワインは飲んでいたものの、1994年の渡航以来、先ずはニュージーランドワインの安くて美味しい事に魅せられ、その後再度オールドワールドやニューワールドワインに拡大してワインをappreciateしている。ただ消費するだけに終わらない様に必死にwine drinking culture の質を高めようと努力する毎日である。
この著者のコラムを読む
皆さん、こんにちは。この原稿は、ニュージーランドの北島にあり、ニュージーランド一の都会であるオークランドで書いています。
2019年頃から世界を震撼させている新型コロナウイルスは、変異種が生まれる度に、その特徴をつかみ対策を練るために人々が右往左往、侃々諤々せねばならず、今だ収束の気配は見えていません。ニュージーランドでは2回目接種率が93%にまで上がっていることから、もう大規模なロックダウンにはしない、と首相のジャシンダ・アーダーンは公言しています。
ここオークランドでは、2020年3月26日からの最初のロックダウン7週間に始まり、同年8月には19日間、2021年2月の3日間と7日間、と短めのロックダウンも何度か経験しました。ところが昨年、2021年の8月18日からの5度目となったロックダウンはデルタ変異であったこともあり、延々3か月半も続いたのです。
勿論、政府は少しでも国民に安全な範囲での息抜きをしてもらおうとして、警戒レベル3の中にステップ制を導入し、屋外でならバブル外の家族や友人とも制限付きで会える様にしたりはしました。けれども他の国同様、精神的にまいってきた一部の人のおかしな犯罪も目につく様になりました。人は人と繋がって生きることが本当に大切なのだな、と再認識させられる事象でした。子供の頃に習った『人』と言う漢字はどちらの1本が無くても倒れてしまうのが人間と言う生き物だから、との言葉がよみがえります。
もう少しだけニュージーランドのコロナ事情の続きを現在まで進めてみましょう。
3か月半続いたロックダウンからオークランドが抜け出たのは昨年の12月2日の真夜中で、クリスマスを前にしてこちらでは人の大移動が起こりうる時期でした。けれども11月末に確認されたオミクロン変異の出現を受け、政府は人々の保護策を新たに考えだしました。
警戒レベルの1~4と言うシステムをやめて、昨年の12月3日からは信号機システムと称して、先ず赤になり、その時点で販売店やレストランやカフェなどは人数制限やソーシャル・ディスタンスやマスク着用はあるものの、営業可能になりました。国内旅行も出来てクリスマスを国民皆がほぼ普通に楽しんだ後の12月31日からはオークランドは黄色(こちらではオレンジと言っています)に下がりました。(集会やイベントや店舗内には入れる人数の制限拡大)ワクチン・パスといって2回接種者が携帯に持てるパスを示す必要は有りますが、学校も会社もお店も開いています。
オミクロンの市中感染者が初めて9名確認されたことを受けて、1月23日の日曜日の真夜中から又ニュージーランド全土が赤に逆戻りはしましたが、以前の警戒レベルとは異なり、ほぼ通常の生活を送る事は可能です。
このようにアップダウンを繰り返し、その都度ニュージーランド政府の新型コロナウイルス感染対策に身をゆだねてきた状況にあるわけですが、夏のクリスマスホリデー直前まで続いた長いロックダウンにより、人々は『集まろう~!』『会いたい!』『お喋りしたい!』と互いにキャッチアップを求めていたのがこの夏だった様に思います。例年でも1か月半から2か月ほどの感覚で国中がホリデームードになる年末年始にはパーティーが多いのですが、今年はそれに輪をかけてお誘いが増えました。
人が集まればそこにはワインが登場する事になりますので、エッセンシャル・ビジネスであるワイン専門店などは潤う筈ですね。そう言えばロックダウンの最中にもローカルビジネスのサポートをしよう、と言う風潮があり、又みんなお店の店先でオーナー達と顔を合わせてちょっと話せる時間を求めていたのもあったのでしょうか、クリック&コレクトと言われるオンライン注文&店先での受取りを多くの友人達もしていました。
マスク越しに久しぶりに交わせる言葉、笑顔が溢れてくるのを感じました。
さて、『ワイン・マジック』を覚えておられますか?何度かここでも書いてきたかと思いますが、ワインは人を出会わせてくれ、仲間を増やしてくれますよね。ワインの持つ力、マジック。
今日はそんな力で必然的に知り合った仲間の一人がお隣の国、オーストラリアのメルボルンへ仕事で数年行ってしまう事になり、彼女の壮行会を行った時のことを書こうと思います。
タカプナにあるワインショップ(コラム第177回 毎週予約無しで行ける超お買い得なテイスティング参照 )で出会ったワイン友達です。
集まったのは例のワインショップ、ファースト・グラスで最初につながった仲間です。オークランドの中心部はサイモンズ・ストリートに在るトップ・ファインダイニングレストランの一つであるKazuyaレストランでシェフをしている男性や、同じくKazuyaレストランでパティシエをしている女性もいますので、皆ワイン通でもありフーディーでもあります。
そんなメンバーが気軽な夏のガーデン・パーティーに持ち寄ったワインはと言うと、先ずはプロセッコのロゼで乾杯。イタリアのスパークリングですが、プロセッコのロゼは昨年2021年の元旦に初めて解禁になったので、味わう価値ありです。グレラ種に加えて必ずピノ・ネロ(ピノ・ノワール)を使わなければならないと決まっています。
ちなみにそれ以前に作られていたプロセッコを産しているワイナリーの作るスパークリング・ロゼにはラボッソ等の他の葡萄品種が混ぜられており、DOCとしてのスタイルが確立されていませんでした。冷やしたロゼの似合う夏のスターターとして爽やかな飲み心地が良かったです。
お次はニュージーランドはマールボロのソーヴィニヨン・ブランではありますが、有名になった所謂よくあるトロピカル・フルーツの香りの強いニュージーランド・ソーヴィニヨン・ブランではなく、かといってロワールのピュイイ・フュメやサンセールとも違いました。ボトル自体が500mlと小ぶりで、ラベルにはALIUSの文字。早速グーグルするとanotherやdifferentの意味だそうでその名の通り、ワインメーカーの思惑が詰まった特異なワインでした。ボルドーの白と似ているね、と形容した人もいましたが、スキンコンタクトをたっぷり行い旨味を引き出した味のある白でした。No sulphur, fining, or filtrationだそうで人工的な添加物や操作からは程遠い自然に近い1本でした。
ニュージーランドのロゼも登場しました。多いのはやはりセントラル・オタゴのピノ・ノワールを使ったロゼで、イチゴの香りがむんむんするロゼにもよく出会いますが、2018年のAlchemyのロゼはメルローを使っていたそうです。ホークス・ベイはボルドー・ブレンドでも有名なので、年によってはカベルネ・フランなども使う様です。淡いサーモン・ピンクのワインをグラスに注ぎ鼻を近づけると、ミルクのまろやかな香りが特徴的なロゼでした。
ここで又北半球に飛んで、アルザスのグラン・クリュを味わいました。2015年のWilly Gisselbrecht & Filsのピノ・グリ。1600年代から続くアルザスのワイナリー・ファミリーの兄弟が作り、火打石の様な香りが感じられ、なかなか複雑な重みのある味でロング・フィニッシュでした。フォア・グラと合う、と裏ラベルに書いてありましたが、手作りシードクラッカーにお持たせの手作りババガヌーシュをたっぷり塗って口に入れ楽しんだ後にこのピノ・グリはよく合っていました。
次に開けたのはホークス・ベイのロゼ、2本目。メルローを主にマルベックやテンプラニーヨも少し入っているようです。チャーチ・ロードと言えばトム・マクドナルドが有名ですが、その妻のグウェンに捧げた南フランスのプロヴァンス風のロゼで、ドライでエレガントなワインでした。ホークス・ベイのチャーチ・ロード・ミュージアムに行くと、トムがグウェンに宛てた愛の詩が読めるそうです。
さて、夕方も8時をまわって少し涼しくなってきたので今日初めての赤を開ける事にしました。マールボロのChurton(チャートン)ワイナリーが唯一作っている赤である、ピノ・ノワールの2015年にしました。1月半ばの夏の夕暮れの気温にぴったりで、まだ残っていた10時間ほどオーブンで焼いたビーフ・ブリスケットをつまみながらゆっくりと味わえました。オーガニックでテロワールの力に任せたワイン作りは『low intervention(人の手の介入を少なくとどめる作り方)』で自然発酵ですが、フレンチ・オークと触れ合う時間も最小限にしているとの事。
このチャートンと言うワイナリーではNatural Stateと言うカラフルなラベルのシリーズも出しており、ピノなのにno oak influence(樽の影響全くなし)の製法で作られているようです。今度飲んでみたいな。
流石に9時ごろになると寒くなってきたので場所を家の中に移してお喋りは続きました。そこで登場したのはこれまたお持たせの、蒸留酒作りをしている友人の作ったジンでした。数年前からオセアニアではジンが流行り始め、いまやニュージーランド産も色々出回っていますし日本産の桜などが入った輸入品もありますが、スターアニスやコリアンダーにシナモンが入ったこのジンは香りが高く皆が感嘆の声を上げていました。みんなもうおなかは一杯でしたが、何故かおつまみに出した玉ねぎ米麹や塩オキアミを入れた手作りキムチが人気でした。
Aさんも2月の初めには発つそうで少し寂しくなりますが、彼女がメルボルンに居る間にはきっと又ワインの情報交換が出来る事でしょう。ワインがあればどこに居ても繋がっていられます。これからもこんな仲間を大切にして何が起こるかわからない世の中、自分の身体と心の健康を守るべく、日々楽しくポジティブに暮らしてゆきたいな、と思っています。